第52話 バビグリン
この記事には少しグロテスクな写真が掲載されております。メンタルの弱い方は、鉄のメンタルを持つためにも目を背けずに、しっかりと目を見開いて最後まで読みなさい。甘えるんじゃない。今まで甘え続けた結果が、今のお前のメンタルの弱さだ。
クリスマスの特別なディナーのため、僕たちはバビグリンを注文した後、宿のスタッフたちが目の前のビーチに道具の準備を始めた。周りがだんだん騒がしくなり、ついにギャーギャー騒ぐ人まで現れた。
いや待てよ、これは人の声じゃないと不思議に思っていると、奥の方から足を鉄パイプに縛られた子豚がスタッフたちに担がれてやってきた。
え、すでに死んでるやつじゃなくて、殺すところから目の前で披露するの? そこ意味ある?
これまで人生で一度も動物が殺される瞬間を見たことがない僕は、ものすごく萎えた。ゆうやも僕と同じようだ。
そんな虚弱な日本人とは裏腹に、なぜかテンションの高いブラジル人の男性陣。やはり、カポエイラや柔術で有名なブラジルという戦闘民族の血が騒ぐのだろう。サイヤ人か、おまえら。
宿のおっちゃんたちが豚を砂利浜に下ろすと、ひとりがナイフを取り出した。そして、もうひとりが血受け用のボウルを持って顔の近くで待機した。
この時、僕はなぜか、豚の最期を見届けないといけないという気がして豚のすぐそばに立った。
おっちゃんが豚の喉元にナイフを添えると、豚がより一層ギャーギャー泣き叫び始めた。自分の運命がどうなるのか悟って最期の悪あがきをしているのだろう。強烈な生に対する執着を目の当たりにした瞬間だった。
おっちゃんがナイフで豚の喉を切り裂くと、豚の最期の悪あがきも虚しく、血がドバっと流れ始めて豚の泣き叫ぶ声は次第に小さくなっていった。
僕は目を背けたかったが、見届けなければならないという義務感から豚の命が果てるまで見届けた。日常では絶対に見ることができない「肉を食べるということはその動物を殺すこと」という現実を見て胸が苦しくなった。こうして人間は生かされているのだ。
ブルーになっている僕を横目に、スタッフたちは慣れた手付きで準備を進めた。切り裂いた喉から血が抜けきると縛っていた足のロープをほどき、今度は腹を裂いて内蔵を取り出した。豚と内蔵をすぐ目の前の海で入念に洗っている。
そうこうしているうちに日が暮れて、辺りは闇に包まれていた。豚を焼くために炊かれている火が、豚を待ち受けて激しく燃えている。
豚が海水で清められると、先程まで豚を縛り付けていた太いパイプが豚のお尻から差し込まれる。うまく位置を合わせると、パイプは一気に奥まで押し込まれ口から突き出てきた。見てるだけで自分のお尻の穴が痛くなってきた。
ここで血気盛んな戦闘民族のブラジル人たちは、記念写真を撮りたいとスタッフに申し出た。
「おまえらも入れ」と言われ嫌々ながらパイプを持つ日本人ふたり。やはり僕らはただの農耕民族のようです。あまりにもグロテスクすぎて失神してしまいそうです。
それから豚は焚き火の上にセットされ焼かれ始めた。ここでもブラジル人たちはオレにもやらせろ、と交代ずつパイプをぐるぐると回して、満足すると席に戻っていった。
それからしばらく豚は焼かれ続けた。僕たちはビンタンビールを飲みながら、豚が焼き上がるのを待った。
1、2時間ほどすると、だんだんと香ばしい匂いが漂い、みんなの食欲を刺激してくる。
完成間近なのだろう、スタッフたちがご飯やサラダなどを席に運び始めた。
僕は先程の残酷な光景の衝撃から立ち直り、テレビや映画でしか見たことなかった豚の丸焼きにだんだんと期待が膨らんでいく。それは他のみんなも同じようで、まるで獲物を待ち受けるハイエナのようである。
ハイエナたちは、今か今かとヨダレを垂らしながら行儀よく獲物の到着を待ったのである。
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