第7話 ヒッチハイクで国境超え

第7話 ヒッチハイクで国境超え

 

 

翌朝、旅立ちの日がついにやってきた。僕はシンガポールから隣国のマレーシアへ向かう。

最後にサトシとルームメイトと朝食を食べているときに、僕はあることを思いついた。

 

「そうだ、ヒッチハイクで国境を越えよう」

 

二人は僕の発言に一瞬驚いたが、君ならできる、と後押ししてくれた。

 

二人と別れたあと、僕はさっそくマレーシア行きのバスが出るターミナルの近くの駅に行き、行動を開始した。

 

 

 

 

ナイトクラブで目立つために持ってきていたドラゴンボールの「ベジータTシャツ」を着て、ドライバーの注意を引いて止まってもらう作戦だ。

写真に写っている後ろのおばちゃんの注意を引けていることからも、Tシャツの効果の高さが伺える。

 

僕は駅前の道路の脇に立ち、ヒッチハイクでお馴染みのグーサインを出してドライバーたちに合図を送った。

 

10分もしない内に、僕の元にインド人のように頭にターバンを巻いた長身の男がやってきた。

「どこに行くつもりなんだ?」

「マレーシアのジョホールバルだよ。(もしや、連れてってくれるのか・・・)」

「ここよりあそこの通りの方が拾ってくれる可能性が高いと思うぞ」

「そうなの? わかった、ありがとう」

 

男性は「グッドラック」と言って去っていった。

初っ端から成功したと思い少しがっかりしたが、なかなか優しいじゃないか、シンガポール。

僕はおじさんに言われた通りに移動して、再びすべてのドライバーにグーサインを送った。

 

ヒッチハイクを成功させるには、できるだけたくさんのドライバーと目を合わせ、笑顔を振りまくことが肝心だと僕は思っている。僕はベジータTシャツをアピールしつつ、「乗せてください。お願いですからぁぁぁぁぁ」の思いをこめて最高の作り笑いをドライバーたちに振りまいた。

 

1時間経っても1台も止まらなかったので、僕は場所を移動することにした。もう少しバスターミナルに近くなれば、車で国境を超える人が通り、そのうち何台かは止まってくれるかもしれない。

移動したのはいいものの、徐々に交通量が少なくなっていたので、もっと交通量が多いところがいいだろうと移動を重ねた。

 

1時間は歩いただろうか。僕は公園か何かの施設の出入り口の近くに陣取り、車が出てくるところを狙うことにした。車が止まってくれないことにはヒッチハイクもクソもあるものか。先んずは、車を止めることに全力を尽くした。

 

目標が定まると歯車は意外と動き出すもので、しばらくしてからついに1台目の車が止まった。ドライバーは窓を開けて笑顔で話しかけてきた。

「私を呼んだのはあなたですか?」

「え、なんのこと?」

「私はGrab(配車アプリ)のドライバーです」

「お呼びでない」

どうやら近くでこのドライバーを手配した客がいるらしい。もちろん僕ではない。ドライバーは僕が客ではないことを知ると、今までの笑顔は消え、ムッとした表情でフル加速で去っていった。

 

「シンガポールのGrabドライバーは客以外には冷たい」とメモしておいた。

 

次に止まったのはおばちゃんだった。おばちゃんはすでに僕がヒッチハイクをしていることを理解しているらしい。

「シンガポールでヒッチハイクなんて、絶対に成功しないわよ」

僕が目をそらして聞こえないふりをすると、おばちゃんは去っていった。

 

「お前にはできない」という人は、たいていそのことに挑戦したことがない人だと僕は思っている。挑戦したこともないくせいに黙ってろ、と僕は思う。僕が挑戦したいんだから、成功するか失敗するかはお前には関係ないのだ。

 

結果はどうあれ、何台か車を止めることに成功している。国境を超えられるときが近づいてきたぞ。

 

しばらくしてもう一台車が止まった。

ドライバーは男性で、僕に耳寄りの情報を教えてくれた。

「この先にバスターミナルがあって、そこからバスに乗るとジョホールバルまで行けるよ」

そんなこと始めから知っているのだ。僕はヒッチハイクがしたいんじゃ。

 

ヒッチハイクする人にはおそらく2種類の人がいる。お金がなくて仕方なくヒッチハイクする人と、ヒッチハイクによってドライバーとつながるという行為を楽しむ人だ。

僕は後者だ。なぜわからないのだ。

 

しかし、このドライバーの言葉は少なからず僕に影響を与えた。

このとき、ヒッチハイクに挑戦してすでに6時間が経過していた。半日も気温30度を超える中、強い日差しに照らされ続けた僕の疲労はピークに達していた。

 

そして、ここで僕は天の声を聞いた気がした。

「これだけがんばったんだから、もういいじゃないの。バスに乗っちゃいなよ」

「はい!!」

 

マレーシア人の友人マークと、クアラルンプールで今夜会うことになっている。そろそろ現実と向き合って移動しなければならない。

僕は疲れ切った体に鞭打って、30分かけてバスターミナルまで歩いた。

 

バスターミナルではがんばった僕にご褒美が待っていた。なんと、国境を超えるバスだというのに、僕がシンガポールに到着した際に購入したツーリストパスで乗れるというのだ。

 

途中、出入国手続きのため下車しないといけなかったが、1時間でマレーシアのジョホールバルにたどり着いた。

 

結論、「ヒッチハイクに挑戦した6時間」は時間の浪費で、「バスに乗る」が正解である。

悔しいけど、あのおばちゃんの「シンガポールでヒッチハイクは成功しない」は今回は正解だった。

 

また次回チャレンジするつもりだ。

 

 

 

 

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